CRPS患者を支える会

  □ 御挨拶

 

 当ホームページ、「with CRPS」を御訪問して頂き有難うございます。

 

 CRPSの患者さんである吉田眞理子さんは、私の叔母にあたり、もう一人の母親と言っても過言でないほど、幼少の頃からお世話になった方です。

 

 叔母は、2009年6月、勤務中に転倒し頭部を強打したことが引き金となり、CRPS-1(複合性局所疼痛症候群Type1)が発病しました。

 "CRPS独特の激しい痛み"に耐えかねて、なんとか症状が改善できないものかと7ヶ所もの有名大学病院を回りました

 

    しかし、どんなに"痛み"を訴えても、医師から処方されたのは、鎮痛剤や精神安定剤のみでした。ここで、【鎮痛剤や精神安定剤が処方された】ということは、メンタルに問題があり、"痛み"は心因性によるものだろうと判断されたことを意味します。

 「それは詐病でしょう?」と悲しい扱いを受けることも多くありました。

 

 患者さんと向き合おうとしてくれる医師ですら「少し時間をおいて様子を見ましょうか」と言うのみで、叔母は誰にも"痛み"を理解されないまま孤独に闘っていました。

 

 そのような折、棚澤医師と出会いました。

棚澤医師は、日本国内でSCS(脊髄刺激装置)植込手術を受けた患者さん約1400人のうち、800人以上の患者さんの手術を手がけており、CRPSをはじめとした難治性疼痛に造詣が深い医師です。

 叔母は、早期にCRPS-1であるとの診断を受け、SCS植込手術を受けるという非常に素早い処置をして頂くことができました。

 

 まだ"CRPSの痛み"そのものは、完全に消えてはいませんが、現在は薬を服用しながら"痛み"をコントロールできるレベルにまで回復しつつあります

 ベッドで苦しみ、"ナイフで切り刻まれたような激痛"にただ涙することしかできなかった頃を思うと、適切な治療を受けたことによって、どれほど救われたことか。

 

―――この病気を通じて、叔母が痛感したこと―――

 

 それは、「日本は"痛み"に疎い」ということです。

 

 欧米では、QOL(Quality of Life)の考え方が浸透しているため、「"痛み"は人間が幸せに生きていく上で最も障害となるものである」という価値観が形成されています。

 その価値観の現れとして、CRPSに関する研究が進んでいること、診る側・診られる側を問わず、CRPSの認知度が高いこと等が挙げられます。

 

  未だCRPSは難病といわれていますが、欧米では疼痛という病気と真剣に向き合った結果、現在では、CRPSを早期発見/早期治療するガイドラインを確立する段階にまで至っています

 

 『決して治療できない病気ではなく、上手く付き合うことができる病気だ』

 

 研究が進んでいる欧米諸国において、CRPSは、このような捉え方をされています。

 

 その一方、日本はどこか、QualityよりもQuantity、

 つまり、「どう生きるかではなく、いかに長く生きるか?」ということに考え方が偏っている傾向があります。

 

 私は、決して"日本の医療レベルが低い/Qualityを軽視している"という主張がしたいわけではありません。

 

 平均寿命は、食事や生活習慣・衛生環境・戦争や犯罪の発生率等の要素が複雑に絡み合いもたらされる成果です。

 「今日、日本人の多くが長く生きることができる」という状況を作り出すために、善意ある医師の弛まぬ努力があったことは事実であり、賞賛されるべきことです。 

 

 ただ、叔母の病気・棚澤医師との出会いを通じて、

・すでに、Quantityの高さとQualityのバランスを取るべきステージに差し掛かっているのでは?

・では、Qualityを高めるために日本の医療はどの分野に注力すべきか?

・それは、欧米の医療と比較した結果、"痛み"の分野であると言えないだろうか?

という疑問を皆さんに一緒に共有して頂きたいと思ったのです。

 

 これは感覚レベルの話になってしまいますが「"痛み"は我慢するものである」 という考えが暗黙の了解としてまかり通っているように感じます。

 

 『"痛み"は病気なんだよ』

 

 そう言われても、違和感を覚えてしまうのは私だけでしょうか?

 

 私たちがこの言葉に違和感を感じてしまう限り、今日の"多くの医師がCRPSの病名すら知らない、仮に知っていたとしても、治療する技術を持っていない"という日本の現状/患者さんが置かれている現状を変えることはできません。

 まず、私たちが "痛み"と向き合おうとしない限り、"痛み"について理解することはできません。

 

―――『私のように辛い思いをする患者さんをこれ以上出したくない』―――

 

 これが、CRPSと闘っている叔母の切なる願いです。

 

 「叔母を救いたい」という思いは、私個人の思いに過ぎないことは事実です。

 ただ、CRPSは20~30代の若い方が発症するケースが多く、私たち若者こそ危機意識を持つべき問題であることもまた事実です

 繰り返しになりますが、外傷と無縁の生活を送ることは考え難いので、私たちもまた、潜在的に患者となりうるのです。 

 

 もちろん、私たち学生の声だけでは、至らない部分も多く、力不足かもしれません。

 しかし、このホームページをご覧になって下さった皆様一人一人のお力添えを頂くことができれば、少しでも状況を良い方向に変えていけると強く信じております。

 

 患者さんの涙が枯れる前に何か私たちにできることがあるはずです。

 

 長文になってしまいましたが、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 

『CRPS患者を支える会』  

『メディカル朝日』 2010年11月号掲載
『メディカル朝日』 2010年11月号掲載

Media

2010年 12/3 朝日新聞夕刊掲載
2010年 12/3 朝日新聞夕刊掲載